認知の歪みと認知行動療法

認知の歪みと認知行動療法

認知の歪み・二分割思考

認知の歪みとは、間違った思い込みのことをさすことばです。何事も100パーセントでないと気がすまないのが二分割思考です。全か無か、白か黒か、敵か味方か、成功か失敗か、損か得か。このようにいろいろな物事を、両極端に考えてしまう思考の歪みです。たとえば、ダイエットをしようとして、一度でもサボってしまうと、もう失敗だと決め付けて、努力をあきらめてしまったりします。それまで親しかった友達と、少し意見が食い違うと、とたんに「あいつは敵だ」と言い出して関係を断ち切ったりします。このため、人間関係が円滑に構築できず、心を許せる友達ができません。過度の一般化という認知の歪みは、過去に体験した失敗や挫折を根拠にそれを物事すべてに当てはめて結論を一足飛びに出してしまう思考の歪みです。これから行うことについては、まだやってみなければわかりませんが、最初から、どうせ失敗するに決まっている、どうせうまくいくはずがないと結論を出して、前向きなチャレンジを避けようとします。そのため、人生で成功体験が積めず、いつまでたっても自分に自信が持てないままです。何かを習得しなければならない局面でもちょっとしたミスを経験すると「またダメだった」とやる気を失ってしまうため、人間的成長の機会をみずから失う結果になります。

 

選択的抽象化

また、物事の悪い面ばかり見て、否定的に考えることが得意で、良い面に目をむけるのは苦手なのが、選択的抽象化という思考の歪みです。できていることもあるにもかかわらず、できていないことばかりに目をむけてしまいます。そして、「~すべき」「~してはいけない」という義務と禁止が思考の中心になるのが、教義的思考という思考の歪みです。
決めたことを少しでも破ってしまうと、とたんに罪悪感が生まれて、負い目を感じます。そのため、自己重要感がいつも低く、セルフイメージとして、能力不足を感じたり、そのものさしで他人をも裁くため、非常に狭量になったりします。こうした認知の歪みは、学んだり誰かに指摘してもらいながら、自問自答を繰り返して、修正していくのが一般的です。これが、認知行動療法をはじめとするカウンセリングの手法です。

 

恋愛依存症とパーソナリティ障害

恋愛依存症という状態は、自分に自信がない状態になりやすい、依存性パーソナリティ障害の人や、自分の存在価値を見いだせず、愛情に飢えている「境界性パーソナリティ障害」の人がしばしば陥ります。恋愛依存症になると、「自分を認めてくれるのは彼しかいない」、「彼が言う通りに生きていきたい」といった観念にとらわれがちで、相手に尽くしたり、献身したりしてどこまでものめりこんでいきます。しかし、本人に周囲が指摘をしても「これは愛情なのだ」と言い張って、耳を傾けようとしません。周囲の反対があるといっそう、のめりこんでいきます。そこで、自分が恋愛依存症の状態にあると自覚させることが大切です。それには、その前段階として多い、「依存性パーソナリティ障害」や「境界性パーソナリティ障害」について、知らせることが早道です。これらのパーソナリティ障害の根本にあるのは「自分に対する無価値感」であり、「見捨てられ不安」という「愛情への渇望」です。この「見捨てられ不安」や「自己の無価値感」が形成された背景は、幼児期の両親とのかかわりの中にある「非共感的な養育環境」です。つまり、両親からの十分な愛情を受け取っていないということです。親に冷たく見放されてきたり、あるいは逆に厳しく束縛されたり、支配されてきた親子関係であった場合が多いです。

 

人間形成障害と過度の一般化

愛着障害やパーソナリティ障害は、幼児期から思春期にかけての生育環境の中で、さまざまな心理的ストレスを受ける中で形成されてしまいます。このとき、成熟した円満な人格への成長が閉ざされて、未完なままの人間形成がなされている状態があります。このことを包括的に、人間形成障害と呼ぶことがあります。思春期の心理的ストレスが大きいと、脳神経の発達のアンバランスが生じ、成人してからの、うつ病などの発症の一因になることがわかっています。これは、ストレス耐性が育っていないということを意味します。人間形成障害とは、人生におけるさまざまなストレス、言い換えれば試練への抵抗力が不完全なまま大人になった状態であるのです。すると、恋愛における挫折、仕事の上下関係での挫折、学業や資格取得での挫折など、人生にしばしば直面する困難に対して、それを乗り越えることができず、心が折れてしまいやすいのです。これを再び、育てなおすことが、メンタル疾患を改善させるための基礎的な作業になります。自分をとりまく周囲の現象をとらえる受け止め方を改善する代表が認知行動療法です。例えば、二分割思考は、白か黒か、どちらか両極端に考えてしまう思考のクセです。実際にはグレーゾーンのほうがほとんどなのですが、未熟な人間性から、敵か見方か、成功か失敗か、損か得かといった見方しかできない状態になっているものです。また、過度の一般化とは、わずかな経験からすべての結論を導いてしまう思考のクセです。一度の挫折で自分の可能性をあきらめてしまったりするのです。あるいは身近な一事例をみて、それが世間のすべてであるかのように思い込んだりします。また、選択的抽象化とは、悪い部分を拡大評価し、良い部分は過小評価してしまう思考のクセです。このような傾向があると何でもマイナス的、ネガティブに受け取るのでたえず心理ストレスを受けます。そして、教義的思考とは、なになにすべきであるとか、なになにしてはいけないといった、禁止命令や義務感が過剰に働いて、自分をがんじがらめにしていく思考のクセです。心の中にゆとりがないので、いつも生きにくさを抱えることになります。認知行動療法の場合は、これを時間をかけたカウンセリングで改善していくのです。